一刀流について

私が一刀流を学んだ市川市の人間禅教団付属宏道会の最高顧問だった 小川忠太郎先生は警視庁主席師範をされ、剣禅一致で「今鉄舟」(現代の山岡鉄舟)といわれた方です。 その小川先生ことあるごとに「技は一刀流で、気合は直新影流の法定で、体力は切り返しで練ることができる」と断言していました。
そして一刀流の欠点としては「昔はあったかもしれないが今は呼吸法などが残されていない」ことをあげておられました。

一刀流と対照的なのは直新影流の法定です。この形は面の落ち下ろし中心のほとんど打ち込みに近い素朴な形です。

しかし、すべての動作に呼吸法を伴い、特に4本目の「長短一味」では吸い込んだ息を太刀の動きに合せてきびすまで下ろします。
まさに流儀の体を作るための形といえましょう。
それに対して一刀流はその1本1本がすべて実戦に使える実戦形の代表です。100本以上ある組太刀すべてに理合いが 含まれており、一刀流の形を学べば剣道の正しい理合いは全部わかるようになっています。

だから一刀流を学べばそのまま剣道が上達するのです。
私は宏道会で一刀流の大太刀50本プラス10本、小太刀、相小太刀、払捨刀、刃引き、5点の合計100本の組太刀を学びました。一刀流の特徴は技の数が多いことですが、基本となる技は「切り落とし」「乗り突き」「浮木」の3つです。

一刀流の太刀筋の代表的な技は「切り落とし」「乗り突き」「浮木」「すりあげ」「張り」などです。 そしてこれらの太刀筋はほとんど現代剣道にもそのまま使えます。 切り落としは一拍子の相打ちの面ですが、現在剣道では面・打ち落とし面に比較的近い技です。

厳密には太刀を打ち合わせた瞬間、打ち落とすというより鎬を使って相手の太刀を摺り落とす感じでしょうか。
乗り突きは反時計回りに回転させる(絞り込む)突き技です。回転が相手の太刀を摺り落とします。
その意味で切り落としの突きバージョンといえましょう。
すりあげ、張りなども現在剣道で普通に使われる太刀筋です。 一刀流は相手の面打ちを下段からすりあげる、だけでなく、脇構えから右足を踏み出してすりあげる
それを裏からすりあげるなど多様なすりあげがあります。 極意の組み太刀「払捨刀」では仕太刀は脇構えで進み、相手の打ち込みを表からすりあげ(表の摺り) 裏から摺り上げ(龍尾返し)がそれぞれ1本目、2本目に配されています。

張りは手首のスナップを十分働かせて相手の太刀を小さく払う動きです。いわゆる払い技に比べると 動きが小さく鋭いところが特徴です。

浮木は相手の力を利用して相手の上太刀をとる技です。
水に浮いている丸太の一方を強く押し付けると丸太はもう片方が「ふあっ」と浮いてバランスとります。
このように力任せに太刀先を抑えてくる相手の力を逆に利用して、右に抑えられたら左から浮き上がり裏から相手の太刀に乗り、 左に抑えられたら右から浮き上がり相手の太刀に表から乗る(そしてそのまま突きに出る)という変幻自在の技です。
浮木は一刀流の大太刀の組み太刀、25本目に出てきますが、組み太刀で十分に練ると現代剣道でも 常に相手の攻めを利用してこちらの剣先が中心を取りながら相手に乗ることが可能になります。
浮木は現代剣道でもそのまま使える重要な技です。特に攻めを含んだ構えをしたり、 相手に攻め入るときに応用できるのです。
これについては和歌山の秋山英武範士が良いエピソードを残しています。剣道日本99年4月号の 「名手の攻め」特集で「50歳前に教えられた攻めの基本となる構え。それから剣道が変わった」という 項で、次のような話をしています。
「阪急百貨店の道場に稽古に行ったとき、松本先生(敏夫範士9段)がいらっしゃって、西先生(善延範士9段) 、長井先生(長正範士8段)と私が先生に呼ばれたのです。そして『構えてみろ』といわれて構えたら、その剣先を 先生が手で払うようにさわって『西、おまえはまだできていない。長井、おまえもまだだめだ』という。 私はもちろん問題にならないのです。そして『これは剣道の極意だからだれにもしゃべるなよ』と冗談も交えて 教えてくださったことがあるのです。一刀流に浮木という教えがありますがそれと同じことなんです。 水に浮く丸太を棒でつつくと突かれた一方は沈むけれどくるりと回って反対の側が浮き上がりますね。 それと同じように正中線を攻めて、相手に剣先を押さえられたらパッとはずして正中線に戻る。 それが攻めにつながる構えの基本だ、それができていなければ本当の攻めにつながらない、という教えでした。 以来25年、それを心がけています」
このエピソードは浮木は構えと攻めの基本であり、極意であることを示しています。 浮木を実践するためには竹刀を柔らかく握る、完全脱力が必要です。それで初めて 相手の力を利用して相手を攻めることができるのです。旺盛な気力で相手に対峙 することは言うまでもありません。

張り

二つの切り落とし

1つ勝

迎突

浮木


組太刀50本

1本目

一つ勝

2本目

迎突

3本目

鍔割り

4本目

下段の霞

5本目

脇構之付

6・7本目

二つ勝

8・9本目

陰刀

10本目

下段之打落

11.12本目

乗身

13本目

一つ勝

14本目

下段之付

15本目

中正眼

16・17本目

折身

18・19本目

摺上

20本目

脇構之打落

21本目

本生

22本目

上段之霞

23・24本目

拳之払

25本目

浮木

26本目

切返

27・28本目

左右之払

29・30本目

逆之払

31本目

地生

32本目

地生之合下段

33本目

陰之払

34・35本目

巻霞

36・37・38本目

巻返

39本目

引身之本覚

40本目

引身之合下段

41本目

42本目

裏切

43・44本目

長短

45本目

早切返

46本目

順皮

47本目

抜順皮

48本目

49・50本目